食品「誤表示」(偽装)の問題は収まる兆しが見えません。旅館で新料理を企画する際は、必ず調理場に安定的に供給できるか、表示に問題はないか、海産物の場合は、時化などで該当食材が仕入れられないときの代替食材の見込みは立っているかなどを確認します。さらに、仕入れにくい食材ならば、お客様の宿泊予約を「3日前まで」などと限定し対応しています。
そもそも、歴史的な背景を考察すると、「日本の料亭や料理屋には元々、『メニュー』が存在しなかった」という事実があります。つまり、料亭や料理屋はお客様に「旬」の食材を最高の状態で召し上がっていただくことが至上命題であり、四季折々に「旬」が変わる日本の市場では、固定的なメニューを作ることができなかったとも言えます。
お客様は「メニュー」ではなく、その店や宿を「信用」して、来店されます。しかし、欧米系の「ホテル」が日本に進出してくると、欧米のお客様たちが「メニュー」を求め、それに応じて「決まったメニュー」を提示するようになったというのが通説です。
そうすると、「メニュー」はどうしても固定的になり、「旬」を考えずに、通年手に入る食材をベースに考えられるようになります。元々「旬」を大切にする日本の料亭などには馴染まないやり方です。
春夏秋冬、季節の食材をふんだんに使うことを前提とした「料理」の場合、事前にメニューを提示することは難しいを通り越して、不可能に近い。事前にメニューを固定すると、「旬」のものを使えなくなってしまうからです。
そうかといって、今の時代、お客様が事前に「食べたいもの」を選ぶというニーズが存在しますので、メイン料理だけ「○○牛」や「○○漁港直送のあわび」などと記載し、そのほかの前菜からデザートまでは記載しない。または、記載しても「季節に応じてメニューが変わる可能性があります」と付け加えるケースが増えてきています。
ただし、当日のメニューは「どこの、どのような食材かを、お客様に知っていただいた方が美味しく召し上がっていただける」ということで、お品書(メニュー)とともに料理を提供しているケースが多くなっています。
事実、当社のクライアント旅館では、昼過ぎに料理長や調理場から、本日の夕食のお品書きをフロントなどに送ってもらい、PCに打ち込んで宿泊人数分をプリントアウトし、お客様に提供するという一連の流れをよく見ます。
そういった一連の流れが「当たり前」の世界を見てきているので、「ホテルではそうではないのか?」と本当に不思議に思えます。
売るために「嘘」をつくことはまかり通りません。多くの真面目に料理に向かい合っている宿は、今こそ料理に対する思いを世間にアピールするチャンスと捉え、真っ当な表示を心がけていきたいものです。