今年は出雲大社の「平成の大遷宮」と伊勢神宮の「式年遷宮」の年でもあり、旅行業界や出版業界で遷宮の話題が多く出ています。日本には古くから「出雲詣で」や「お伊勢参り」の言葉が存在する通り、神社仏閣に対する信仰があり、それが文化や経済と結びついています。昨今のパワースポットブームとも合致し、出雲や伊勢は例年にも増してにぎわうでしょう。
私たちはその地方で商いをしていないので、関係ないという話ではなく、地方には独自の信仰や文化が根付いているものです。それをうまくPRし、お客様に喜んでいただいているケースが多々あります。伊豆天城吉奈温泉の「御宿さか屋」では“1200年の霊泉~子宝祈願のお参り・お礼参りに”と、「子宝の湯プラン」を展開しています。吉奈温泉は元々「子宝の湯」として有名で、江戸時代には徳川家康側室のお万の方も噂を聞きつけ湯治に訪れ、頼宣と頼房の二子を得た事で全国的に知られるようになったといいます。そんな子宝の魅力を伝えようと、善名寺のご祈祷の手配を代行し、栄養士の女将がプロデュースした特製「子宝料理」を用意するなど、盛りだくさんのプランとなっています。ちなみに「善名寺」は、西暦724年建立の曹洞宗寺院でしたが、江戸時代にお万の方の寄進により日蓮宗に改宗した名刹です。
西洋式な考え方をすれば、「エビデンスを出せ」や「民間信仰」と言われてしまう話かも知れませんが、冒頭の遷宮の話にあるように、そこには「祈りの文化」があります。ただ、それを伝え続ける努力をしないと、文化そのものがすたれていってしまいます。実際、このプラン発売後には、従来以上に全国から子宝を望まれるお客様が増え、子宝を授かったケースも多々あるそうです。また、プランだけではなく、宿の公式ホームページにも「子宝のいわれ」を若女将が体系的にまとめ、好評を得ているそうです。プラン名には「子宝祈願のお参り・お礼参り」にとのことですから、お子様を授かった暁には「お礼参り」に来られることでリピーターにもなっていただけます。そのニーズに応え、赤ちゃんの温泉デビューや、お礼参りに「露天客室&幼児1名無料プラン」という宿泊プランも販売し、こちらも好評を得ています。
子宝に限らず、日本各地の神社仏閣には、それに応じた御利益が伝えられています。また、それと温泉の効能を組み合わせることにより多くの派生した物語を紡ぐことが可能です。そういうことを求めての旅も、日本の文化です。それらを求めて旅をする人の価値観は、ただ単に価格が「安い」「高い」や、料理がどうこうという話ではありません。
旅館が地域に根差して存続することは、地域に残る歴史ある信仰や風習を次代につなぐ役割を担っていることでもあります。皆様の地域でも、そういった信仰や風習を見つめなおし、宿泊プラン化されてみてはいかがでしょうか?