日本の観光を、観光業界以外の方が批判的にとらえる事象として、旅館の「1泊2食のスタイルが悪い」というのがあります。グローバルスタンダードは泊食分離で、そのスタイルに慣れたお客様にとって、日本の宿泊スタイルはなじまない、ということのようです。
ある有名温泉地にあるクライアント旅館では、特定の部屋を1泊朝食付きで販売していました。他の1泊2食プランより安いということで、売れ行きは好調でした。ところが最近、流れが変わってきたのか、1泊2食付プランの方が先に売れ、1泊朝食付きプランが売れ残ってしまうことが多くなっています。
要因としては1点目が、この温泉地も人手不足の流れにあり、今まで1泊2食を主に売っていた旅館が、1泊朝食付きプランを人手がかからない(夕食を出すスタッフがいない)ので積極的に売り出したこと。
2点目は、1泊朝食付きプランで宿泊申し込みをしても、この温泉地に夕食を食べる店がそれほどなく、宿泊客にとっての楽しみがない。
3点目が、マーケットのニーズ以上に1泊朝食付きプランが売れてしまい、想定しているお客様(アウトドアやカップル旅行)以上に、プラン(部屋)が出ているので売れ残ってしまう。この3点が理由として考えられます。
都会のど真ん中で1泊朝食付きプランを売れば、このようなことにはならず、宿泊先以外に娯楽(ショッピング、飲食、エンターテイメントなど)があり、観光として成り立ちます。
しかし、温泉地として考えたときには、娯楽の要素が組み込まれた温泉地は全国的にもそれほどありません。また、インバウンドのお客様にも、地方の温泉地に1泊朝食付きで泊っても、夕食を食べることができる場所が少ない、ということが分かってきているのが、1泊朝食付きプランが売れなくなった要因でしょう。
ただ、この事例は特定地域の話であり、地域全体で「泊」・「食」・「観光」に取り組んでいるエリアは別です。しかし、地域全体でそういう取り組みを出来ていない現状もあります。
一方で、インバウンドに取り組むなかで、外資系OTAの担当者から「1泊朝食付きプランを出さないと、インバウンド客はとれません」と断言された旅館もありました。その旅館では「1泊朝食付きをたくさん販売しても、そういう経営体制になっていないので、1泊2食しか売らない」と断り、結果として1泊2食のお客様が大量に泊るようになり、大成功を納めたという事例もあります。
マーチャンダイジング施策の一環として、1泊朝食付きプランを販売し、価格帯に幅を設けるということはありますが、「売りやすいから」といって安易に販売を続けると、思わぬしっぺ返しにあうでしょう。
バランスの取れた施策を考えなければいけない「時期」が、今なのでしょう。