「英旅行大手トーマス・クック、破産申請 旅行者15万人の帰国作戦が開始」という、衝撃的なニュースが流れていました。
トーマス・クック社といえば、観光業を学んだ人なら、知らない人がいないほど、世界的に有名な旅行会社です。最初に団体旅行を始めたのも、この会社です。
さらに、トラベラーズチェックも発明するなど、近代旅行業と観光業への貢献は、測りしれないものがあります。
本当の意味で、レガシー(遺産)となってしまったのは残念でなりません。
記事によると、欧州連合(EU)離脱による景気低迷を不安視した英国の観光客が、海外旅行を控えたことが影響した、との記述もありましたが、それだけが主要因でないことは、明らかだと思います。破綻の大きな要因とみられるのは、「21世紀の時流に乗り遅れた」ことだと思います。
つまり、IT化やOTAへの対応など、「個人で旅行を予約する」という時代の潮流から外れたことでしょう。
世界的な潮流としては、「旅行会社を通さずに、個人で旅行を手配する人」が増えた、ということが影響していると思います。
この「個人化」と「IT化」の流れは、旅行業界、観光業界だけでなく、すべての業種で起きています。
宿泊産業で考えると、インターネット販売が盛んになってきた頃は、リアルエージェントからネットエージェントに販売主軸が移行する「旅の窓口エフェクト」や「じゃらんエフェクト」(※造語です)によって、リアルエージェントの影響が薄くなってきました。
最近では、ネットエージェントはオンライントラベルエージェントと名称を変えて、リアルエージェントの市場を奪う形になったのに加え、外資系OTAが個人予約の大半を抑えるようになってきています。
つまり、個人予約というマーケットが拡大すると同時に予約の主軸が、リアルエージェントからネットエージェント、ネットエージェントから国内OTA+外資系OTAへと予約媒体が増えて、競合が一層激しくなっているという状況です。
こうしたなか、リアルエージェントが盛り返すことは、なかなか難しくなっています。
とくに、日本の旅行社の数は、人口に対して多すぎるように思います。さらに、宿から提供された部屋を、旅行会社が売り切れないという状況では、未来はありません。
宿泊施設の中には、リアルエージェントの比率が高いところもあるでしょう。ただ、それも特別な理由がない限り、永遠にその状態が続くことはないと思います。
世界の旅行会社不要時流が、日本でどう影響するのか注目するとともに、宿泊施設が、リアルエージェントとの付き合い方を考える、良い機会になると思います。
トーマス・クック社の事例は、日本の旅行会社にも、特別なことではないはずです。