観光文化研究所(大坪敬史社長)は2月19日、東京都内で旅館経営者向け「年間75日休館の“わがまま経営”でも旅館を繁盛させる法」と題したセミナーを行った。第1部では旅の宿丸京(栃木県・鬼怒川温泉)の沼尾礼子女将が自館の経営理念を説明。連泊、アレルギー対応不可などを掲げながら、宿が無理をせずに4期連続増収増益を達成、鬼怒川エリア人気ランキング最高1位を獲得できた理由を明かした。
【後藤 文昭】
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旅の宿丸京は、栃木県・鬼怒川温泉にある1978年創業の宿。バブル景気や東武特急スペーシアの開業などが追い風となり、鬼怒川温泉エリアの宿泊施設は順調な営業が続いていたが、03年に足利銀行が経営破綻し状況が一転。大型旅館の倒産などが相次いだほか、旅行スタイルも団体旅行から個人旅行に変化。個人客を取り込もうとする各旅館の価格競争の影響を受け、丸京も売上がピーク時の約半分に減少した。
07年、炭をコンセプトにした宿づくりをスタート。宿泊客の声から問題点を集め、宿泊客と従業員双方のニーズを反映させながら、客室や食事処などを改修。これにより10年に客単価1万700円、客室稼働率36・6%だったものを、16年には単価1万6097円、稼働率62・5%まで向上させた。
丸京が客室単価と稼働率を向上させられたのは、施設の改修だけではない。同館には全館禁煙、未就学児、連泊、アレルギー、好き嫌い対応は不可など、宿側から宿泊客にさまざまな条件を出している。これは「丸京を選んでもらえる人、合った人に来てほしい」という思いと、小さな宿だからこその「宿が無理をしない」という考えのもとに、決められている。
例えば、未就学児童の受け入れ不可。丸京では食事処が狭く、テーブル間隔を広くできない。これによって、子供連れの宿泊客とそうではない宿泊客双方が気を遣い合い、落ち着いて食事ができない環境になることを危惧。保護者が落ち着いて食事ができるように子供を預かってくれる旅館もあるが、同館のスタッフではその対応はできず、またテーブル間隔が狭いことで子供のケガの心配などもある。このことから同館では、未就学児の受け入れを段階的に見直しながら、現在の決断を下した。
このように同館は、宿泊客と従業員、双方の不安を取り除くことで、クレームやマイナス評価を回避。お客様を迷わせない、待たせない、ストレスにならない、不安にさせない、不快な思いをしないよう細心の注意を払い、好評価につなげている。
第2部は井川今日子氏が担当。「目先の売上よりも『おもてなし』を重視して圧倒的に旅館を繁盛させる法大公開!」で、丸京での事例も交え講義を行った。
井川氏は総務省がまとめた「2011年社会生活基本調査」を引用し、75歳を迎えると旅行をする割合が一気に減少すると説明。近い将来人口のボリュームゾーンである団塊の世代が旅行に出なくなることが見込まれるとし、旅館は若い層へのアプローチが非常に重要と強調した。若い世代を経営会議などに参加させ、商品企画や客室リニューアルなどで意見を反映させている丸京の事例を紹介。宿泊客が普段使いしているものよりもなるべく見劣りしないということが、客室の内装やアメニティ選択では1つの基準になるとした。
第3講座では大坪氏が「外部環境に振り回されずに“主体性のある経営”で旅館を繁盛させる法大公開!」と題し講義した。大坪氏は「組織×人×観光地×料理で商品企画を深化させた宿が強い」とし、各周年事業や地域の取り組みと連携した事例などを紹介。また、「地域資源の掘り起こしを行い、宿泊プランで売れなくても、域外のお客に掘り起こした観光地に対し興味を持ってもらうことも重要だ」とした。